●このドラマは、女に逃げられた男と男に逃げられた女の物語です。どちらかというと男に逃げられた女のほうが感情移入しやすいです。
千代原夏希(香里奈)は、結婚式の最中に夫となるはずだった幸太(福士誠治)に逃げられてしまいました。夏希は人に借りを作ったり、人から同情されたりすることを極端に嫌う勝ち気な女です。見方によってはサバサバしていて今でいうオトコマエの女性ですが、夏希のことを知れば知るほど気弱な幸太は結婚するのが恐ろしくなってしまったのかもしれません。
逃げ出した幸太から夏希に一通のメールが届きました。
こんなことになってしまって
申し訳ない気持で一杯です。
ただあのまま一緒になってい
たら今以上に迷惑を掛けること
になっていたと思います。
弱い俺を許してほしい。
逃げた男が辛いか、逃げられた女が辛いか……微妙なところです。
夏希はイタリアンレストランで店長をしていました。しかし結婚が決まって寿退社してしまったため、結婚生活もダメ、仕事もダメになってしまいました。今では完全なプーです。
幸せの絶頂から不幸のどん底へ……夏希が気の弱い女性だったら人生をはかなんで断崖絶壁から身を投げていたかもしません。さすがにそこまでは考えなかったものの、負けん気の強い夏希もしばらくは立ち直れないほど落ち込んでいました。
●三厨朝日(山下智久)は、内房線の海辺の町にある小南写真館のカメラマンです。三年前に突然いなくなってしまった一倉香澄(長澤まさみ)がいまだに忘れられずに帰ってきてくれると信じて待ちつつけている変な男です。夏希とは結婚式の写真撮影を頼まれたのが縁で知り合うようになりました。
夏希は、朝日から、地元の海の家「青山」で店長をやってくれないかと誘われます。海の家「青山」は、名前はレストランですが、実際は掘っ立て小屋のようなお店です。それでも地元の人たちに愛されているかけがえのないお店です。ところが今年は店長の下嶋勢津子(板谷由夏)が出産のため、毎年かならず開かれていた「青山」の開店が危ぶまれていました。だれか助っ人を捜さなくてはなりません。
変人の朝日にはどうしても「青山」を開店してもらわなくては困る事情がありました。香澄も海の家の「青山」が大好きでした。今年の夏もしかしたら香澄が帰ってきてくれるかもしれません。そのとき「青山」が開店していなかったら香澄が悲しみます。香澄を悲しませないために、朝日には何が何でも「青山」は開店しておく必要がありました。
朝日は結婚式の様子から夏希がイタリア料理店の店長だったことも、かなり腕のいいシェフだったこともわかっていました。夏希こそは「青山」の店長として勢津子の代役が務まる貴重な人材です。朝日は藁をもすがる思いで夏希を海辺の町に呼びました。騙してまで。
夏希は誘われるままに気晴らしのつもりで朝日の住む海辺の町にやってきました。ところがどうも話が違います。レストランと聞いていたのに実際は掘っ立て小屋のような海の家だし、一日だけといわれていたのにいつのまにかひと夏ということになっていました。
朝日にウソをつかれたことに気がついた夏希は極端に不機嫌になりました。勢津子の夫の賢二(高橋克典)が土下座して勢津子のピンチヒッターをお願いしても無駄でした。
帰るといってきかない夏希に、朝日は言ってはならないことを言ってしまいます。夏希を駅まで送っていくクルマの中でのことです。
「男がもっとも苦手な女性のタイプって、気が強くって強情な女だって、ご存じでした?」
「女からしたら、ウソをつく男なんて論外ですけどねえ」
「……だから逃げられるんだよ」
売り言葉に買い言葉です。朝日は夏希の傷口に塩をすり込んでヤスリでこすってしまいました。激怒した夏希は途中でクルマを降りて歩いて帰ると言い出しました。しかしそれが運のつきでした。歩くと駅までそうとう距離があります。夏希は終電に乗り遅れてしまいました。
●谷山波奈江(戸田恵梨香)は父親が経営する谷山酒造の役員です。ほとんど仕事はしていません。それでも待遇だけは役員待遇です。若くしてお金に困らないリッチな生活をしています。波奈江は10年間朝日に片想いを続けている変な女でもあります。
終電に乗り遅れた夏希は仕方なく波奈江のところに泊めてもらうことになりました。運命のいたずらです。波奈江のところに泊った夏希は、一途で単細胞(?)の波奈江が気に入ってしまいました。二人はまるで古くからの親友のように意気投合してしまいました。
翌日、波奈江に連れられて夏希はお産で入院中の勢津子に会いに行きました。そこで、建物はボロでも「青山」というお店がどこにでもあるようないい加減な海の家ではないということを知らされます。勢津子のピンチヒッターを頼まれるということは、シェフとしてむしろ光栄であり誇らしいことでさえあるんだということを悟らされます。
何だか状況がなし崩しになってきました。既成事実が積み上げられて地元の人たちは夏希がすでに「青山」の店長を引き受けてくれたつもりになっていました。夏希としても、勢津子に会ってからというもの、どうせヒマなんだし、みんながそんなに喜んでくれるなら店長を引き受けようかという気になっていました。
●夏希は最初、朝日に10年間片想いを続けている波奈江を本気で応援してあげたいと思っていました。ところがです。朝日とは喧嘩もするけど折に触れて見せる朝日のさりげない優しに夏希は心を奪われていきます。夏希はやがて朝日に特別な感情を抱くようになっていました。
朝日と波奈江が親しくしていると、夏希は嫉妬まじりの寂しさを感じるようになります。夏希の朝日への想いは、波奈江に対する裏切りです。結果的に波奈江を騙したことになります。しかし、いけないとわかっていても恋心というのは理屈ではありません。夏祭りの花火大会の夜です。あまりの切なさに夏希は泣き出してしまいます。
これ以上この町に長居はできない……勢津子も「青山」に復帰したことだし、夏希は東京に帰ることにしました。
「あたし、この町が大好きです。今日ますますこの町のことが好きになりました。この町のみんながホントに大好きだし、ホントにホントに大切だから、あたし、東京に帰ります」
「苦しいんです。ここにいたら、もっともっと、もっともっと好きになっちゃいそうで、苦しいんです」
恋愛感情というのは隠そうとして隠しきれるものではありません。年の功で賢二や勢津子は夏希の秘めた想いにすでに気づいているかもしれません。あるいは朝日のことに関してはやたらと敏感な波奈江もそれとなく気づいているかもしれません。朝日も自分の心の空洞を埋めてくれるのは波奈江ではなく夏希だと無意識に思いはじめているかもしれません。
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月9ドラマ「SUMMER NUDE」の楽しみ方
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