中国の習近平国家主席が提唱した「一帯一路構想」というのは、「シルクロード経済ベルト」と「21世紀海上シルクロード」の2つで構成されています。中国を中心としたユーラシア大陸全域に広がる広大な経済圏構想です。
PART 1 安川の目論み
中国の膨張を恐れる日本の安川首相は吉村国家安全保障局長(外務省の別動隊)を伴って中央アジア・リドキスタン(架空の国・モデルはカザフスタンか?)に向かっていました。
安川首相は石油と天然ガス資源に恵まれた中央アジアの要の国・リドキスタンと友好関係を築いて中国の中央アジアへの膨張を食い止めようとしていました。何を考えているのか中国封じ込め作戦です。
PART 2 一致する思惑
安川首相は成長戦略の一環として「トップセールス」に熱心です。日本の優秀な技術力を首相自らが先頭に立って売り込もうというのです。安川首相は日本企業の経営陣を引き連れて世界中を飛び回っています。
リドキスタンの訪問でも多くの日本企業のトップたちを同行させていました。安川首相がリドキスタンのマリコフ大統領に提案したのは国営の化学会社の設立です。豊富な天然資源をそのまま輸出するよりも製品化して付加価値をつけて輸出したほうが儲かるというのです。
「中核となる石油化学プラントの建設を始め、化学会社の設立・経営については、世界で活躍する我が国の優秀な企業が連携し……責任を持ってサポートさせて頂きます。」
安川首相はこうも付け加えました。
「石油、天然ガスの大半はパイプライン経由で、ロシアと中国に輸出している。いわば両国に命運を握られている訳ですが、この化学会社は経済的、政治的自立への第一歩となるはずです!」
安川首相のセールストークにマリコフ大統領は身を乗り出して聴き入っていました。
PART 3 手土産の中身
江沢民が支配していた上海黄華石油集団の菫事長・馬は石油閥のエースとして将来を嘱望されていました。しかし、江沢民と対立していた習近平が政権を掌握すると、途端に粛清の標的にされてしまいました。
公安警察に拘束された馬(マー)は国務院中央書記処で、劉常務書記の尋問を受けていました(国務院中央書記処には実際に劉雲山という常務書記が実在します。江沢民、胡錦濤、習近平と政権が交代しても、どの派閥とも良好な関係を築いているという不思議な人物です)。
劉常務書記は馬の能力を高く評価していました。反主流派として葬り去るよりも、主流派に取り込んでその能力を発揮してもらいたいと考えていました。
「君が粛清から逃れ、主流派入りするためには手土産が必要だ」
劉常務書記は「手土産」として、馬に戦略上の要衝である中央アジア(リドキスタン)の攻略を命じました。馬の役職は外交部副部長です。
PART 4 賄賂
ロシアではプーチン(?)大統領が側近のラスキン安全保障担当書記と外交・安全保障問題を協議していました。大統領は中央アジアに進出しようとしている中国の動きにイライラしていました。
中央アジアはロシアの裏庭のようなものです。その裏庭に手を突っ込むとは我慢がなりません。憤懣やるかたないといった感じの大統領をなだめてラスキンが言いました。
「まあまあ、私がリドキスタンに向かい、友好関係を壊さずに中国の進出を食い止めましょう。」
リドキスタンの大統領官邸では、マリコフ大統領が中国の馬外交副部長を出迎えていました。中国側の希望とはいえ、たかが次官クラスの出迎えを大統領の自分がしなくてはいけないのか、マリコフ大統領は少し不機嫌でした。
マリコフ大統領が不快感を抱くであろうことは馬外交副部長にとっては計算済みです。そんな不快感など賄賂攻勢で簡単に吹き飛んでしまいます。
馬外交副部長が賄賂として用意したのは、改造型メルセデスの最高級車種・マイバッハ(推定1億円)と現ナマ(推定5億円)です。恥を知らない品性下劣の男は賄賂に弱いです。
馬外交副部長は、建設コストの2割削減とAIIB(アジアインフラ投資銀行)による全額融資という条件をエサに、日本企業が仮契約を結んだ石油プラント建設計画を横取りしました。賄賂が効いたのかもしれません。マリコフ大統領はあまりの好条件に目がくらんで契約先を日本から中国に乗り換えてしまいました。
PART 5 中VS露
リドキスタンの大統領官邸で、マリコフ大統領とロシアのラスキン安全保障担当書記が、リドキスタン空軍とロシア空軍が共同使用しているラジーク空軍基地をめぐって会談を行っていました。マリコフ大統領はロシア空軍に対してこれまで無償で貸与していたラジーク空軍基地に対して、これからは年間5億ドルの使用料を支払うよう要求してきました。
「こちらの条件をのめないようであれば、ロシア軍には基地から出て行ってもらう。」
ラジーク空軍基地は、ロシアにとって「中央アジアはもとより、中東、南アジアに睨みをきかせる」重要な軍事施設です。絶対に手放すわけにはいきません。
出ていくか、5億ドル支払うか、ラスキンは即答を避け、本国に持ち帰って検討することにしました。猶予期間は1か月です。
ラスキンがまず向かったのは中国でした。マリコフ大統領はなぜ突然高飛車な態度に出てラジーク空軍基地からロシアを追い出そうとするのか……ラスキンは背後で中国が糸を引いているのに違いないと考えました。中国の軍事的野心の臭いが濃厚です。
ラスキンは北京を訪れ、馬外交部副部長に中国の真意を質そうとしました。しかし馬の態度は国力の違いを見せつけるかのように冷淡でした。
「友邦であっても、我が国の外交政策に対する干渉は無用です。残念ながら、もう貴国は超大国ではありません。米国に対抗できるのは……我が国だけです。賢明なあなたであれば我が国との友好関係こそが貴国の命綱であることは、おわかりのはずです。我が国の世界戦略に協力して……米国に対抗することが、貴国の国益に叶うと思いますがね。」
馬外交部副部長は完全に上から目線です。斜陽国家はつらいです。しかしこのままおめおめと中国のいいなりになるのはロシアのプライドが許しません。ラスキンはとんでもない次の一手を考えていました。
PART 6 ラスキンの秘策
リドキスタンの空港に見覚えのある一人の男が降り立ちました。何とゴルゴ13です。
PART 7 テロ発生!
リドキスタンでは、新しく完成した大統領公邸に中国の馬外交部副部長が招かれていました。これから中国が受注に成功した石油・化学プラント建設計画の契約調印式が行われる予定です。しかし馬外交部副部長の目の前でマリコフ大統領は暗殺されてしまいました。警備兵に変装していたゴルゴ13の仕業です。
目的のためには手段を選ばず、中国は賄賂を使い、ロシアは暗殺を企てる……何となくお国柄が表れています。
独裁者・マリコフ大統領が暗殺されたことによって、リドキスタンは大混乱に陥ります(たぶん)。政府軍と反政府軍が対立して内戦が始まるかもしれません。この第561話が結末を迎えるためには、ゴルゴ13にもうひと働きしてもらわなくてはなりません。今度は誰が暗殺されるのでしょうか……。