●3年前のことです。小春(満島ひかり)の夫だった青柳信(小栗旬)は痴漢の疑いがかけられていました。その後ゆくえがわからなくなったという被害者の女子高生はおそらく栞(二階堂ふみ)です。信にかけられた痴漢の容疑は栞が仕組んだワナでした。ただ、信が線路ら転落して轢死してしまったのは、栞にとっても想定外の出来事だったかもしれません。栞が小春の夫である信に悪意を抱いていたとしても、殺意まで抱いていたとは考えにくいです。
栞にとって、信の死亡事故はおそらく想定外の出来事でした。しかしそのきっかけを作ったのは栞です。その後、栞が誰にも言えずに罪の意識に苛まれていたとしても不思議はありません。栞はどこか精神を病んでいるようなところがあります。
●なまけもので甲斐性なしの植杉健太郎(小林薫)も気持だけは善人です。小春と紗千(田中裕子)のこじれてしまった親子関係を何とかしたいと気を揉んでいました。
健太郎は紗千にないしょで小春のアパートを訪ねました。健太郎は小春に、小春が働いている間テーラーウエスギで望海(鈴木梨央)と陸(髙橋來)の二人の子どもを預からせてほしいと申し出ました。小春も、健太郎にはそれほど感情的なわだかまりがありません。子どもを預かってもらえれば大助かりです。
早速テーラーウエスギに望海と陸を預けることにしました。ところが、子どもを預かるという話を紗千は聞かされていません。紗千は、仕事から帰ってきたら望海と陸がいるのでブンむくれてしまいました。おまけに健太郎は望海と陸を紗千に押し付けて用事があるといって外出してしまいました。
紗千は、娘の小春のことをいまだに恨んでいます。でも孫の望海と陸に罪はありません。孫というのは孫というだけでかわいいものです。最初は渋い顔をしていた紗千でしたが、だんだん打ち解けてきて望海と陸をお風呂に入れたり浴衣を着せたりしてすっかり気のいいおばあちゃんになっていました。
紗千はかわいい孫と過ごせて内心嬉しかったはずです。でも、小春の前では依然として不機嫌な態度を続けていました。この人相当強情っぱりだね。
●小春は今まで知らなかった事実を紗千の娘の栞から聞かされました。紗千も健太郎もあえて小春には伏せていた事実です。
世の中には人生が思い通りにいかなくて飲んだくれては自分の女房に暴力を振るう男がいます。そのくせ子どもにはやけに優しくて人気があったりします。売れない小説家だった小春の父親もそういうタイプの男でした。妻の紗千には日常的に暴力を振るっていましたが娘の小春にはやさしい父親でした。幼かった小春は紗千が夫の暴力に苦しんでいた事実を知りませんでした。小春の記憶に残っているのは男手ひとつで自分を育ててくれた優しかった父親の思い出だけです。
「あなたがいい父親だと思っていた人は人間のクズ。死んだ人のことをきれいな思い出にして、生きている人間傷つけて……そういうのって、ああ星がきれいだなあって言いながら足元の花踏みまくっている人のパターンでしょ」
「うちのお父さんあなたからお母さんとってないですし。お父さんはお母さんのこと助けただけ、あなたの父親の暴力から」
「あなたの父親、お母さんのこと毎日殴ったり蹴ったりして。キズ残ってるの。お母さん前歯何本も折られて差し歯なんですけど。おなか蹴られて入院したこともあるんだよね」
「お母さんが家族捨てたとか言っているけど、全然違うし。あなたがそんな可哀想なお母さんを捨てたんだし。あなたがそんな人間のクズみたいな男を選んだんじゃないんですか!」